差額配分法

1.意義

賃料上昇局面

      現行賃料 +(新規賃料−現行賃料)× 配分率

賃料下降局面

      現行賃料 −(現行賃料−新規賃料)× 配分率

 ※下降賃料局面では差額配分法は適用しないとする考えがある。新規賃料を上限とする。

  賃料上昇局面                   賃料下降局面

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差額配分についての留意事項

貸主に帰属する部分については、一般的要因の分析及び地域要因の分析による差額発生の要因をに分析し、さらに対象不動産について次に掲げる契約の事項等に関する分析を行うことにより適切に断する。

 ア 契約上の経過期間と残存期間

 イ 契約締結及びその後現在に至るまでの経緯

 ウ 貸主又は借主の近隣地域の発展に対する寄与度

2.成立根拠

継続賃料は新規賃料を後追いして変化することに着目し、現時点の新規賃料を示して現行賃料との開差を明らかにし、その間で当事者双方が納得する賃料を見い出すところにある。

3.キーポイント

(1)新規賃料の把握

新規賃料の把握が適正に求められ、この点で当事者間で認識が一致すれば、現行賃料との開差について当事者間に共通認識ができ、そこから開差の適正な配分がなされれば、当事者を説得する有力な手法となりうる。この場合新規賃料の把握が重要なポイントとなる。これが信頼のおけるものでないと開差をどのように縮めるかといってもその作業は全く意味をなさなくなってしまう。

新規賃料を求める手法

賃貸事例比較法

  新規賃貸事例 × 事情補正 × 時点修正 × 標準化補正 × 地域要因 × 個別的要因

積算法

  基礎価格 × 期待利回り ×必要諸経費等

   (基礎価格  地代:土地価格 家賃:土地建物価格)

収益分析法

家賃について

(賃貸事例比較法)

新規家賃は新規地代と異なり事例を収集しやすく比較的求めやすいといえるが、それでも募集家賃ならいざ知らず、新規の成約家賃となると、簡単には入手できない。

またマンション、ビル等の賃料は求めやすいが、スーパー等の大型店舗やホテル等になると大変難しい。地元の不動産業者やオフィス仲介業者等から聞き取りを行ったり、公的評価収集事例やレインズ、J−REIT等から事例を入手するなどして新規成約家賃を収集することになる。

<新規賃料水準の把握>

適切な新規成約家賃を収集できない場合でも、募集家賃は収集しやすいのでこれから新規成約家賃の水準を一定の幅をもって把握することはできる。これは是非とも押えておきたいところである。賃貸事例比較法の適用は困難で、積算法のみで新規家賃を求める場合、積算法によって求めた新規家賃が適切か否かを判断する材料の一つとして新規家賃水準は有用だからである。この点は新規家賃ならぬ継続家賃についても継続家賃水準を把握することが有用であることは後で触れる。

【コラム】

新規家賃は事例を収集できることが多く比較的求めやすいが、足を運んで調査しないと 

A駅東口の駅真ん前の店舗新規賃料を調査したことがあった。二つの地元業者に足を運んで聞き込み調査を行ったところ、駅前なかんずく駅の真ん前の賃料は突出して高く、駅至近で駅に面するところでないところは1階で15,000円/坪前後であるのに対し、駅前ビルは1階で28,000〜30,000円/坪、2階で25,000円/坪、3階で20,000円/坪はしており、この1〜2年で上記賃料で実際に契約をしたということであり契約書も見せてもらったことがあった。駅至近の15,000円/坪のところは裏通りでもなんでもなく、駅前ビルからすぐのところで人通りもそれほど変わらない。今までの私の感覚では賃料にそれほど差がないとおもわれたので驚きであった。調査対象の西口は東口より人通りが多かったので新規賃料を査定するのに参考にさせてもらった。足を運んで調査することの大切さを学んだことであった。

 

(積算法)

期待利回りは各種金融資産に対する投資利回りとの関係において対象物件の投資対象としての非流動性、管理の困難性等を考慮して定める。日本不動産研究所の投資家調査等々が参考になる。

 地代について

(賃貸事例比較法)

普通借地は使われなくなっているので新規地代の収集は極めて困難である。

それでも公的評価で収集される事例やレインズの事例等のなかで、建売業者が借地権を買い受け、住宅を新築して借地権付建物として分譲する場合などに見受けられる。

不動産競売評価書の中の事例(インターネットのBITで検索)から、まれに新規地代とみなしてもよいものが見られる。

新規地代の収集の努力は必要であるが、実際のところは、適切な新規地代になかなか遭遇しない。

一方、一般定期借地や事業用定期借地、とくに後者の事例は多く発生しているので賃貸事例比較法を適用できる場合が出てくる。

(積算法)

いきおい新規地代は積算法で求めることが多くなる。

積算法は基礎価格、期待利回り、必要諸経費等によって価格が形成されるが、このうち期待利回りの把握が難しくまたこれにより価格が左右される度合いが大きい。

期待利回りは家賃と同様に各種金融資産に対する投資利回りとの関係において対象不動産の投資対象としての非流動性、管理の困難性等々を考慮して定めることになるが、土地の保有、運用が長期にわたることから金融資産利回りとしては長期の10年国債等の利回り等が参考となる。

新規地代の利回り水準について

普通借地の新規地代を求める際の期待利回りを推定する手がかりとして、以下の「定期借地権に関する新規実質地代利回り水準」の資料がある。

●  定期借地権に関する新規実質地代利回り水準

 第2回定期借地権に関する実態調査報告書(日本不動産鑑定士協会・関東甲信会(茨城、栃木、群馬、
 千葉、神奈川、埼玉、長野、山梨))・平成16年1月発行

 一般定期借地権・新規実質地代(保証金の運用益を平均4%として計算)
 平成 6年調査  95事例 実質地代利回り 1.79% 
 平成15年調査 215事例 実質地代利回り 2.29% 

 一般定期借地権に関する新規実質賃料(保証金の運用益を平均2%として計算)
 平成27年調査 228事例 実質地代利回り 1.81%
 実質利回り=(年額支払地代+保証金の運用益)÷更地価格

※上記報告書の中で、

新規地代については、地価が高いところも低いところも実質地代利回りは平均すると2%強のところにある。この意味では実質地代利回りは地価に対して中立的であり、一般定期借地権における新規実質地代利回りの特徴であるとし、支払地代利回りは地価に対して右肩下がり、保証金(運用益)は地価に正比例で右肩上りであるので双方が相殺される結果、地価に対して実質地代利回りは中立になっている、とする。

(2)差額の配分

現行賃料が正しく把握された新規賃料に対してどの程度のところにあるのか、開差はどうなのかを把握してつぎにその開差(差額)を埋めるのか埋めないのか、埋めるとしてどの程度埋めるのが適切なのかを検討することになる。

差額の配分は「折半」を使うことが多いが、

折半法(1/2配分)が多いのは喧嘩両成敗、痛み分けと同じで、当事者双方が納得する解決方法として受け入れやすいことが背景にある。

分配方法は、1/2以外にも1/3とか1/4とかいろいろ考えられるが、1/2をはじめ1/3にしても1/4にしても合理的根拠を見い出すことは困難である。いきおい喧嘩両成敗ということで1/2が使われることが多い。

しかし、この分配方法こそ、差額分配法では新規賃料水準の把握とともに、当手法の精度を左右するものであり、配分の論拠を示すことが大切になってくる。

配分に際しては、

○ 不動産鑑定評価基準で前述した差額配分ついての留意事項を考慮する。

○ また継続賃料の鑑定評価が借地借家法第11条第1項(地代)第32条第1項(家賃)の相当賃料と同義と

 るという立場に立ち、最高裁の判例に従えば、賃料額決定の要素その他諸般の事情を総合的に考慮るこ

 とになり、

   契約締結時の諸事情及び契約締結後の事情変化

      一般的経済的事情
      賃貸人の個人的事情
      賃借人の個人的事情

   を考慮する。

以上を踏まえできるかぎり事情を挙げて整理し、不明な点をはっきりさせ判断することになるが、その際、

  1.契約時の賃料相場(新規賃料)、賃料改定時の賃料相場(新規賃料)、契約賃料と新規賃料との乖離
   とその動き
   これが解れば有力な手がかりの一つとなる。

  2.当事者双方の及ばない事情(例 物価の変動)
   賃貸人の責めに帰すべき事情
   賃借人の責めに帰すべき事情(例 オーダーメイド契約で相場より高めの賃料を設定)
   に分けて整理する。

そのうえで、私的自治の原則(契約自由の原則)の範疇にあるもの、範疇にないものを判断して、総合的に判断する。

【コラム】

契約当初の家賃が周辺相場水準より高めであったが…

 地下1階の飲食店舗家賃について、契約締結日から2年5ヶ月しか経過していないにもかかわらず、家賃減額を実質ベースで約50%ダウンの鑑定評価書が出されており、これをうけて店舗オーナーから相談をうけたことがあった。当時周辺の土地価格は地価公示ベースでは2年5ヶ月で▲33.8%下落していた。契約当初の店舗家賃は周辺相場水準より高めと認められたが、契約締結日から2年5ヶ月しか経過しておらず、また契約期間3年の期間内ということもあり、一挙に−50%ダウンが認められれば私的自治の原則契約自由の原則はないに等しいといえる。店舗賃借人は、数多くの店舗の中から周辺相場水準より高くても良しとして選んだのであり、契約は守らなければならない。契約締結日から短期間であれば、すぐれてこのことが当てはまる。

以上を踏まえて、当方は実質賃料ベースで▲19.8%ダウンの評価を行なったが…。

 

【コラム】

継続家賃で、結論的にはマイナス1/2の差額配分を採用したが…

賃借人は昭和61年から現行賃料の一部を支払い始め、建物の増築、新築を経て平成元年から現行賃料金額を支払い続けてきており、約19年間で約○○億円前後の賃料を支払ってきている。賃貸人は既に投下資本の2〜2.5倍の金額を回収しているとおもわれ、加えて建物の経済的残存耐用年数は今後20年強あるという状況にある。以上の点を踏まえると賃貸人にマイナス差額配分の1/2以上を与えて賃料をもっと減額し、新規賃料に近づけるのがかえって公平ともいえるが、第1回目の賃料改定としては1/2にとどめるのが相当と判断して配分額を決定したが…。

 

【コラム】

物流施設の家賃評価で、契約後11年後の家賃評価における差額配分法でマイナス差額を1/3としたことがあった。

物流施設の家賃評価における差額配分法で、マイナス差額を1/3としたことがあった。賃貸人が現行賃料から甘受する賃料減額分を1/2ではなく1/3でとどめたのは、以下の事情を考慮したためであったが・・・。

 

1.契約内容

オーダーリース契約における物流施設で汎用性が認め難い。

2.契約締結に至る経緯

当初事業計画は月額○○○○万円のスタートであったのが、賃借人の要望で7%程度低い月額△△△△万円が提示され、賃貸人は渋々承知したが、そのかわり2年毎に賃料増額のための協議を行うことで折り合いがついていた。

3.賃料改定の経緯

契約から4年経過した時点で2年間に限り、2年経ったら元に戻すという条件で月額賃料△△△△万円を5%程度低い賃料とする合意がなされたが、6年経過した時点で賃借人から元に戻すのではなくさらに2年の延長の申出がなされた。
これに対し賃貸人側からは、契約解約制限期間を15年から20年に延長するという条件付で賃借人の申出を受け入れる等の提案がなされたが、交渉は進展しなかった。それ以降は膠着状態続いて今日に至っている。

 

(マイナスの差額配分を認めない立場…新規賃料優越派)

差額分配法は地価が右肩上りで新規賃料が上昇するときに現行賃料をいっきに新規賃料まで引き上げるのは経済的弱者である賃借人に過酷であるとし、増加の差額を配分するということを想定した手法であり、賃料が下降する局面を想定していないとし、この局面では新規賃料即ち経済合理的な賃料が改定賃料になるとする立場がある。この立場では、結果として現行賃料からマイナスの差額の全額を控除することになる。…新規賃料優越派・新規賃料上限派

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