都市近郊の住宅地の新しい潮流 2018.6.1

1991年にバブル経済が弾け、それ以降日本経済は長期の低迷期に入っている。この間、ちょっとしたミニバブルが発生したり、最近ではアベノミクス効果による景気上昇の兆しが見えたりするも依然としてデフレの状態は続いている。

この長期低迷期に、住宅地に何が起こったのか、私の住んでいる松戸市及びその周辺市では「大規模住宅団地の値崩れ現象」が生じ、「パワービルダー登場で住宅地の価格体系(秩序)に異変」が生じてきている。これは松戸市に限らず、多分、都心近郊の住宅地に共通していることとおもわれる。

デフレが進み、経済的ゆとりがなくなり、将来の展望(収入の上昇、年金の充実等)がきかなくなって、第一次取得者の住宅に対する意識が、バブル崩壊前の「都心から1時間半かけても庭つき住宅」からバブル崩壊後の「庭なし住宅でも都心に近いところ」に大きく変わってきている。

上の2つの現象は、日本経済の長期にわたる低迷が、住宅に対する人の意識に変更をもたらし、その結果、発生したものといえるのではなかろうか。

都心近郊の大規模住宅団地の値崩れ現象−何を意味するのか−

東急柏ビレジ(千葉県柏市内)

東急不動産が昭和54年に開発完了、昭和55年に販売開始、平成2年にほぼ完売。その後一部追加造成・販売がある。

開発当初 約1,500戸。現在 約1,600戸。
 

・特徴

バス便     JR常磐線北柏駅から3.6㎞〜5㎞
        TX線柏の葉キャンパス駅から1.5㎞〜3㎞

1区画が大きい 1区画が55坪前後が中心
        建築協定により170㎡(51.4坪)以上

住んでいる人  70才以上の高齢者が多い

住環境     良好
 

・平成20年、21年に大幅な値崩れ現象が生じた

中古の売出し物件が30戸近く出て、なかなか売れず1年間滞留した。

この間、地価公示では東急柏ビレジに2地点があり、平成20年1月1日から平成21年1月1日まで年率−6〜−6.6%、平成21年1月1日から平成22年1月1日まで年率−5.3%〜−5.5%の下落を示し、以降−4%弱から−2%の下落が続いている。下落率は、中古住宅における土地、建物内訳としての土地価格をどのようにみるかによって異なってくるが、私自身は平成20年は−10%以上の下落ではなかったかとおもっている。
 

・値崩れ現象の原因は

供給 高齢者が、柏、柏の葉キャンパス等の駅近のマンション、都心マンションに移動。なかに地方に帰る者もいる。これによって中古物件が市場に出てきた。

需要 需要者層の中心は年収400万〜500万の30才〜40才前半の一次取得者層であるが、彼等は柏ビレジに興味を示さず敬遠しがちである。

以上から中古物件が市場に出まわったが、買手がなかなかみつからない状況が続いた。
 

・値崩れ現象をどうみるか

昭和50年、60年代は「団塊の世代」を中心に、彼等が通勤に都心から1時間半から2時間近くかけても「郊外の庭つき住宅」を求めた。平日は残業に残業で、楽しみは休日の一家団欒、庭いじりであった。

これに対し、現代は楽しみは多種多様であり、便利なところにお金を分散させる。30才〜40才前半の求める戸建住宅は、凡そつぎのとおりである。

  1.  利便性のよいところ。駅から歩けるところ。徒歩10分以内、ギリギリ15分以内。駅も都心に便利な駅。
  2. 土地は広い必要はない。30坪〜40坪でかまわないが、駐車場スペースは欲しい。広い土地で庭いじりをすることは避けたい。共稼ぎであれば、庭いじりする時間は作れない。
  3. 住環境はほどほどでかまわない。住宅は自分達一代限り、子供に残すことまで考えない。

大幅な値崩れ現象が生じたときの中古住宅は築26年もので2,000万前後、築16年もので2,500万〜2,800万で年収400〜500万の一時取得者が購入できない価格ではなかったが、バス便で55坪前後の庭つき中古住宅には興味を示さないはずで、30戸近くの中古住宅がなかなかさばけなかったのである。
 

大規模住宅団地の値崩れ現象は東急柏ビレジばかりではない

松戸市内の小金原団地(旧住宅公団が45年前に開発。JR常磐線北小金駅バス便、1区画が70坪強(最低敷地制限なし)、高齢者が多い)。

小金原団地に隣接する柏市内の西山団地(小田急不動産が50年前に開発。JR常磐線北小金駅バス便、1区画が50坪中心、高齢者が多い)。

流山市内の江戸川台住宅地(千葉県住宅供給公社が開発。東武野田線江戸川台駅徒歩便、1区画が80〜100坪が多い(一部地区計画165㎡以上)、高齢者が多い)。

といったところは、いずれもバス便か又は徒歩便でも私鉄沿線で都心から遠く離れていて利便性が劣り、1つの区画が大きく、住民は高齢者が多い。

いずれも平成20年頃から大幅な値崩れ現象が起きている。

平成28年、平成29年、平成30年の地価公示でみると、松戸市の小金原団地は値崩れが止まってきたが、柏市の西山団地、流山市の江戸川台住宅地は値崩れ現象が止まっていない。
 

大規模住宅団地は今後どうなっていくのか

住宅を求める第一次取得者層がバス便や広い土地を求めようとしない傾向が今後とも続くのであれば、大規模住宅団地はさびれていくことになろう。土地の価格も安くなっていくことになろう。現に松戸や柏や流山より都心からもっと離れたJR成田線沿線の瑞穂ニュータウン(下総神崎駅2.8㎞内外)、ウッドパーク四季の丘(下総神崎駅1.9㎞内外)等々といったところでは、この傾向が顕著である。

これは、日本全体を見渡して、東京に人が集中し、地方が過疎化していく現象と似ていないか。

地方の街興しで地方に魅力が出て人が戻ってくるところをテレビで放映されたのを見たことがあるが、大規模住宅団地でも環境が見直され、コミュニティの良さが創出されてくれば、さびれていく流れに歯止めもかかるかもしれないが・・・。

続・都心近郊の大規模住宅団地の値崩れ現象

大規模住宅団地・東急柏ビレジの値崩れ現象について、当ホームページに2014.12.1に掲載している。その後、東急柏ビレジはどうなったのか。興味をそそられるところである。東急柏ビレジの中には地価公示の地点が2ポイントある。その地価の動きを追ってみると次のとおりである。 

  柏−5(柏たなか駅2km) 柏−61(柏たなか駅1.4km)
平成20年(19.1.1〜20.1.1) +4.5% +4.3%
平成21年(20.1.1〜21.1.1) −6.0% −6.6%
平成22年(21.1.1〜22.1.1) −5.5% −5.3%
平成23年(22.1.1〜23.1.1) −3.8% −3.7%
平成24年(23.1.1〜24.1.1) −3.0% −1.9%
平成25年(24.1.1〜25.1.1) −2.1% −4.8%
平成26年(25.1.1〜26.1.1) −2.1% −1.7%
平成27年(26.1.1〜27.1.1) −1.6% −1.2%
平成28年(27.1.1〜28.1.1) −4.0% −3.9%
平成29年(28.1.1〜29.1.1) −8.5% −4.9%
平成30年(29.1.1〜30.1.1) −6.8% −4.2%

平成20年1月1日から平成22年1月1日にかけて大幅な値崩れ現象が生じ、その後も値崩れは続いているが、次第に下落幅は縮小する傾向にあったのが、平成27年1月1日から平成30年1月1日にかけて、再び、大幅な値崩れが起きている。

供給は、高齢者の駅近マンション等への移動の結果生じているが、それに対する需要は、中心となる若い層が柏ビレジを敬遠するので弱いものになっている、といった基本的な構造が続いており、東急柏ビレジは、このため、価格の下落が続いている。平成20年、21年は大幅な値崩れ、その後はその反動もあって、下落幅は小さくなってきたが、平成27年以降再び値崩れが大きくなったのは、東急柏ビレジと柏たなか駅周辺の区画整理地をつなぐ地域での区画整理の開発が見込めなくなり、その期待感がなくなって、東急柏ビレジの魅力が薄らいだことや、柏たなか駅周辺の新しい区画整理地に若年層が流れていること等々が挙げられる。

パワービルダーの登場−住宅地の価格体系(秩序)を崩し、街並みを変えていくのか

パワービルダーが登場した時代背景

・1991年にバブル経済が弾け、それから2018年(平成30年)6月の今日まで約27年が経過している。

戦後からバブル期までの45年間は焼け野原から国土の復興が始まり高度経済成長が続いたが、1991年から一転して日本経済は長期の経済低迷期に入った。

パワービルダーが首都圏を中心に勢力を伸ばしてきたのは、1990年代後半の経済低迷期が始まってから10年近く経った頃である。2005年、地価上昇が始まるとパワービルダーは成長にかげりが出てきたが、2007年〜2008年にかけてミニバブルがはじけると急成長をとげた。2013年11月に、一建設、飯田産業など大手パワービルダーの6社が経営統合し、飯田グループホールディングスを設立した。6社の年間住宅供給数は単純合計すると2万6,000戸以上に達し、業界首位の積水ハウスの約1万7,000戸を大きく上回ることになった。
 

パワービルダーとは

・パワービルダーは首都圏を中心に建売住宅を販売する。建売住宅の内容はおおよそ次のとおりである。

土  地:100〜130㎡
建  物:延床100㎡前後
販売価格:2,500万円〜3,000万円が中心(2,000万〜4,000万)

都心郊外の駅から徒歩15分以内のところに3〜5棟の割合で住宅を建てて分譲する。なかに10棟以上の現場もある。特徴的なのは土地の形状で、長方形等にまじって旗竿地が見られることである。道路潰地が生じることを回避する結果として旗竿地が生じる。
 

パワービルダーが勢力を伸ばしてきた理由

・大きく分けて2つの理由が考えられる。

(経済的理由)
バブルが弾けデフレが進み、30才から40才前半まで(30才前半が中心)の第一次取得者層の年収は400万〜500万が中心である。そうすると2,500万円〜3,000万円の価格帯がピッタリあてはまってくる。銀行融資の基準といわれる「年収の5倍」でみると年収500万×5=借入額2,500万である。2,500万円を30年間借入れすると毎月の返済額(ボーナス返済なし)は、変動金利0.775%で月額77,851円、固定金利1.61%で月額87,604円となる。

(30才前半を中心とする第一次取得者層のイメージする住宅に適合)  
利便性のよいところ。駅から歩けるところ。徒歩10分以内、ギリギリ15分以内。駅も都心から利便な駅。

  1. 土地は広い必要はない。30坪〜40坪でかまわないが、駐車場スペースは欲しい。広い土地で庭いじりをすることは避けたい。共稼ぎであれば、庭いじりする時間は作れない。
  2. 住環境はほどほどでかまわない。住宅は自分達一代限り、子供に残すことまで考えない。

パワービルダーが提供する建売り住宅は、30才前半を中心とする第一次取得者の希望する上記の住宅と噛み合っているといえる。都心から1時間半〜2時間近くかけて、50〜60坪の庭つき住宅を求めてきた「団塊の世代」とは住宅に対するイメージが全く違うのである。
 

街並みの様相が変わってきている

・都心近郊の住宅地で住環境の良いところというと、幅員5〜6m道路が整然と配置され、1区画が60坪、70坪といった広いところである。

そこでは、今は、60坪、70坪の取引はまず見かけない。例えば、周辺相場が50万円/坪とすると、土地だけで総額が3,000万円〜3,500万円とかさみ、買手がおいそれと出てこないからである。

しかし、60坪〜70坪の土地がひょっこり売買されることもある。その場合は従来から形成された高い価格水準での取引が見られる。

1区画が広い住宅地域で現在取引されているのは、その広い土地ではなくて、パワービルダーの建売住宅で、結果殆んどは100㎡〜130㎡(30坪〜40坪)の狭い土地である。広い区画の土地が単独であるいは隣接地と一体となったうえで100〜130㎡に分割され、それが市場で動いているのである。

住環境の良い住宅地は、パワービルダーによる虫喰い状態が生じてきており、街並みの様相は変わってきている。
 

住宅地の価格体系(秩序)が崩れてきている

・住宅地は利便性とともに住環境が大きな価格形成要因である。ところが、パワービルダーというと、利便性が重きを置かれ住環境が価格形成に占める比重はそれほど大きくない。

パワービルダーでは、駅から徒歩15分前後で〇〇駅、□□駅は3,300万前後、△△駅は2,800万前後と、まず売買の総額が決められる。そこに住環境の要素は入るものの、その比重は大きくない。3,300万前後の建売住宅が売れているところの土地価格(単価)は、ざっくりいえば変わらないということがいえる。建物は同規模、同品質、土地は同規模であるなら、その結果、土地価格(単価)は同じだからである。

ただし条件がつく。それは、土地が例えば30坪(100㎡)程度の単価ということである。 

住宅地の価格は、同じ住宅地でも、60坪から70坪の土地の価格水準と30坪の土地の価格水準が別々に存在し、二重構造となってきている。

そして60坪や70坪の土地の価格形成では、利便性の比重が増してきているものの依然として住環境を無視できない。

一方、30坪の土地の価格は主に駅の性格、駅からの距離等々の利便性によって形成され、住環境の比重は小さいものになってきているといえる。

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