スライド法

1.意義

現行賃料(※純賃料)× スライド率 + 価格時点における必要諸経費等

(※現行賃料 − 現行賃料を定めた時点における必要諸経費等)

現行賃料(支払賃料)× スライド率


スライド法についての留意事項

変動率は土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数等を総合的に勘案して求める。


2.成立根拠

当事者間で合意した賃料について、その後の経済事情の変化を調べ、変化した分だけ改定賃料に反映させれば十分である。


3.キーポイント

(1)スライド率を乗じる現行賃料を定めた時点をいつの時点とみるか

スライド指数を乗じる前提となる現行賃料はいつの時点に定めたものとみるのかが問題になる。直近合意賃料が合意された日を起算点として変動指数を乗じることになるが、その合意が次回は大幅に値上げする約束の下に値上げ幅を小幅にとどめたといった事情がある場合、値下げしたいのは山々だが、賃貸人の要求に応じて渋々賃料が据置かれてきた経緯があり合意について賃借人に不満がある場合、自動増額条項に基づいた合意であった場合等々、問題となる。

(自動増額特約について)

最高裁の判例(平成20年2月9日)…家賃について

原審が直近の自動増額による現行賃料を定めた時点からの経済事情の変動等を考慮したことに対し、当初契約時点を起算点として、賃料自動特約に拘束されることなく、経済事情の変動等諸般の事情を考慮すべきであり、自動増額特約の存在及びこれが定めるに至った経緯等は諸般の事情の一つとして重要な考慮事情になるにすぎない。

自動増額特約により増額された賃料は、当初契約時における将来の経済事情等の予測に基づいたものであり、自動増額時の経済事情等の下での相当な賃料として当事者の合意したものではないから直近合意賃料と認めることはできない。

最高裁の判例(平成15年6月12日)…地代について

地代等自動改定特約は、その地代等改定基準が借地借家法第11条第1項の規定する経済事情の変動を示す指標に基づく相当なものである場合はその効力が認められるが、当初は有効であったとしても、改定基準を定めるに当っての基礎となった事情が失われ、同特約によって定められた地代等の額が借地借家法第11条第1項の趣旨に照らして不相当なものとなった場合は、当事者はもはや同特約に拘束されない。


スライド率を乗じる基礎となる現行賃料は一応時系列上の直近の合意した時点のものとなろう。当事者が合意した以上は、たとえ当事者が不満で心底納得していなくても、それを承知で合意したのであるから、一応合意として扱うべきである。

この場合、当事者が自己の利害得失を正面からぶつけたうえでの合意であることが必要である。そこでは私的自治の原則が働くからである

ところで、スライド賃料を求めようとする場合、

 ① 当初契約時

 ② 各賃料改定時

 ③ 直近の賃料改定時

以上についてそれぞれ時点を基準としたスライド賃料を出してみることは、有用な方法となる。スライド率を乗じる直近の合意時点は、文字通り時系列の中での直近の時点が適切かどうかを判断する材料となる。

【コラム】

スライド率を乗じる前提となる賃料を最終合意時点ではなく当初契約時としたことがあった。    

契約では、地代改定は固定資産税評価額の増加率によるとされ、昭和57年契約時では月額○○万円が、7年後の最終合意時点の平成元年では約41%増の月額1.41×○○万円である。

 

スライド指数は消費者物価指数を標準とし、その他の指数を総合的に検討して査定した。価格時点は平成18年4月11日である。

 

昭和57年を基準とした   月額    変動率       月額

スライド賃料      ○○万円   ×   1.20  =  1.2×○○万円

 

平成元年を基準とした     月額      変動率       月額

スライド賃料      1.41×○○万円   ×  1.09  =  1.537×○○万円    

 

昭和57年から平成元年まではいわゆるバブル期にあたり、周辺地価は2、3倍と異常に高騰したことを反映して固定資産税評価額も約41%と上昇している。以上のことは、当初契約時には予想できなかったことであり、スライド賃料は最終合意時点を基準とするよりもむしろ契約時を基準としたほうが、昭和57年から約23年経過した賃料としては妥当と考えた。ちなみに、昭和57年を基準としたスライド賃料は周辺継続地代水準の枠におさまっているが、平成元年を基準としたスライド賃料は枠を超えている。

(2)スライド指数 

  ● 一般的・地域的要因の変動を示すもの

   消費者物価指数<総務省統計局>

      総合指数、家賃指数、全国・都道府県別、市町村別

   企業物価指数(卸売物価指数)<日本銀行調査統計局>

   国内総生産(GDP)<内閣府>

   賃金指数<厚生労働省>

   企業向けサービス価格指数<日本銀行調査統計局>

      不動産賃貸:事務所賃貸(東京圏、大阪圏、名古屋圏、その他の地域)

            店舗賃貸、ホテル賃貸、駐車場賃貸

   全国賃料統計<日本不動産研究所>

      オフィス賃料、共同住宅賃料

   ビル実態調査<日本ビルヂング協会連合会>

   オフィス募集賃料、空室率等<大手オフィス仲介業者>

   商業統計調査・商業動態統計・特定サービス産業実態統計、同動態統計<経済産業省>

   (例)大型小売店舗販売額(百貨店、スーパー)、コンビニエンスストア販売額の動向

   日本ホテル協会、日本ショッピングセンター協会、日本チェーンストア協会等々の統計資料

   地価公示・地価調査

   市街地価格指数<日本不動産研究所>

   建築費指数<建設物価調査会>

   周辺類似継続賃料の変動率又は改定率

 ●  個別的要因の変動を示すもの

   対象不動産の公租公課の推移

   対象不動産の売上高の推移(有価証券報告書)

 その他各種の統計資料

上記はスライド指数として挙げられるものである。スライド率(変動率)の判定は、上記各種指数の特性を踏まえ、地代、家賃の別、用途別(住宅用か商業用か工業用か)、地域の動向に加えて、対象不動産の性格を考慮しておこなうが、その場合、一つの指数のみに限定するのではなく、各種指数の組み合わせも考えてみる。

スライド法の本質は貨幣価値の調整か
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貨幣価値調整派

 賃料は物価の一つであり、スライド法の本質は貨幣価値の調整にある。賃貸人の実質所得の水準を維持しようとする考え方が基底にあるとする。賃料の変動の過程をなぞることではなく、契約当事者の所得の再調整と考えるべきであるとする。

スライド指数としては、消費者物価指数と企業物価指数ならびにその集約した形としてのGDPの指数が最も適切である。

継続賃貸市場の変動派

 スライド法の成立根拠を継続賃貸市場の変動と捉えるべきとする。一般的な物価の変動ではなく、また新規賃料の変動でもなく、まさに継続賃料の変動を反映するのが正しい。継続賃料の変動の動きと一般的な物価の変動の動きが同一となる必然性はない。

しかし、対象不動産周辺の継続賃料の動向を示す資料が収集できればよいのだが、現実には困難である。従って、その場合は少しでも継続賃貸市場との関連性のある代替的な各種指標によって総合的に判断することになる。

【コラム】

スライド指数として、大手テナント仲介業者の既存ビル平均賃料を採用したことがあった。

  

(1) 変動率の査定にあたって参考としたデ−タ (H25.10〜H27.3)   

消費者物価指数

・総合・東京都区部

企業向けサービス価格指数

・不動産賃貸・店舗

オフィス賃料

・東京都区部

+2.5%

+3.7%

+7.4%

総務省統計局

H22=100

日本銀行統計局

H22=100

日本不動産研究所

 

  

オフィスデータ 渋谷区

地価

建築費

+8.9%

+8.2%

+8.5%

三鬼商事(株)

既存ビル平均賃料

地価公示 渋谷5-15

渋谷区恵比寿1-11-2

(財)建設物価調査会

H17=100

店舗・S造

 

(2) 変動率の査定

恵比寿の1階店舗賃料の変動率として、価格牽連性が強いと認められる渋谷区のd.事務所賃料変動率を採用して、スライド賃料を求めた。

  • 本件の賃料増額訴訟は、弁護士の話では、当方の評価額は差額配分法と賃貸事例比較法を中心に検討して現行賃料の+18%であるが、相手方の事情も考慮してdの+8.9%で裁判上の和解を成立させたということであり、この指数は大変役立ったということであった。

 

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